読んだ本「氷壁」
「氷壁」井上靖
【C】
氷壁に挑む、登山家の孤高な生き様、というのを期待して読み始めたところ、なんか違った。山での場面よりも、義理やしがらみや恋愛やら人間関係が繰り広げられる東京での場面がメインで進行し、キーになるのはナイロンザイルが切れたかどうか。もちろんその何をするにも他者と絡み合う人間社会と、孤独で純粋な山の精神との対比をより映し出す意味もあるのだろうけども、ナイロンザイルが切れたかどうかでこんなにゴタゴタしているのを見せられると、なんだかウンザリする。
そして大きく物語に関わる二人の女性にも、魅力を感じない。5.60年も前の作品だから仕方ないのかもしれないが、何を考えて生きてるのかさっぱりわからない。そんな女性とのあれこれが、主人公をラストの死地へと誘うわけで、どうにも感情移入できなかったのは残念。それと美奈子さんのキャラ造形がなんとも戦後の昭和。人妻の一夜の過ちって・・・
典型的な「時代に取り残された」本といった印象。
しかしながら、登山家は詰まるところ死に行き着くという、常磐の語る思想はなかなかに考えさせられる。